TOPICS023:サヴィニャックの色 その③ 08.06.2018

サヴィニャックが意識的に多用した「」が、祖国フランスを体現する「トリコロール(青・白・赤)だったことは、この連載の第二回で記した通りです。あわせて、パリを示唆する明るいブルーをさり気なく添えた点も、この作家ならではの色使い、として良いでしょう。

さらに踏み込んで、トリコロールの「配列」に注目すると、絵柄との関係で、興味深い事例に行き当たります。今回、原画とポスターがどちらも出品されている《フランス、食卓の悦び》は、合板にグワッシュで描かれた前者(1966年頃)と、

完成形の後者(1966年)のイメージが完全に左右反転しており、もちろんトリコロールも同様です。
一杯の豊穣なワインを口にした「ガリアの雄鶏」(フランスの象徴)が、鶏冠から胸元まで赤く染まり、すこぶるご機嫌な様子をメイン・ヴィジュアルとする本作は、サヴィニャックが師と仰いだA. M. カッサンドルの連作ポスター《デュボ・デュボン・デュボネ(キナ入り食前酒)》(1932年)を彷彿とさせ、左にワイングラス、雄鶏(カッサンドル作品では人物)が右側、という構図も共通しています。これは、「真似をした」のかも知れない、「本歌取り」「オマージュ」ではないか、などの深読みをする以前に、フランス語その他の欧文は、文字が左から右へと記される性質と関わっています。

すなわち、「」と「文字情報」を組み合わせるポスターにおいて、「ワインを飲んだらご機嫌になった」状況を、欧文の文字列との関係を鑑みつつ、原因と結果、時系列に沿って説明的に表す場合、必然的に「ワイングラスを左に置く」のが収まりの良い構図となります。

とするならば、左を向いた雄鶏の色彩は、否が応でも「逆トリコロール(赤・白・青)となります。細かな点として、この向き・配色の雄鶏と、「フランス、食卓の悦び」の文字情報の組み合わせからすると、サインの位置も左上が落としどころになるのです。

ところがポスターは、右を向き、典型的なトリコロール配色の雄鶏のイメージで刷られました。何故でしょうか。それは、本作が「フランスの食(農林水産物・食品・飲料)を、国として世界的にプロモーションするもの」だからです。原画はフランス語版で、ポスターは英語版ですが、本展には出品されていないフランス語版のポスターも「イメージの左右反転=国旗と同じトリコロール」が見られます。しかし、原画とくらべると、ポスターの構図は、少しばかりぎこちなく、動きに欠ける印象となりました。

とは言うものの、今でこそ3色の並びが定められ、その配列に「お国柄」「フランスの文化」を強く感じますが、1794年よりも前は、実のところが逆転した旗も存在しました。

他のサヴィニャック作品で、「逆トリコロール」が原画に使われ、なおかつポスターも反転無しで刷られたのが、前々回に紹介した《文化遺産年》です。

この事例では、「PATRIMOINE」(遺産)という単語のすぐ下に、それを象徴する雄鶏の尾が描かれ、羽根の一つひとつが、構成遺産の音楽、建築、美術、文学、映画の図式化――竪琴、T定規、絵筆、ペン、フィルムになっています。これらが「フランスの文化」であることを強調するには、やはり「」が望ましく、よってイメージが左右反転されなかったに違いありません。フランスの首都であるとともに、自身が生まれ育ち、人生の4分の3を過ごした「パリ」がテーマの作品群においても、サヴィニャックは、この街に対する愛を込めてトリコロールを駆使しました。代表作の一つ《1951年、パリ誕生2000年記念》(1951年)は元より、フランス共和国の建国記念日こと「パリ祭」(7月14日)
パリの近世庭園を代表し、観光名所として知られるテュイルリー公園(整備1664年。ルイ14世時代)に関するものは、すべて「青白・赤」のコンポジションを基本とし、加えてパリを意味する「青赤」と、その風物(男女・恋人たち・エッフェル塔・花・小鳥のつがいなど)を密接に結びつけています。そして、トリコロール(及びパリ市旗の2色)の配列に、逆転現象はありません

一種の様式美とも言える「フランス/パリに捧げるトリコロール・シリーズ」の派生形として、本サイトの「サヴィニャックとデザイン史の本棚」で取り上げた『巴里案内』(マダム・マサコ著)に掲載の《雑誌『ヴォーグ』のための「1951年、パリ誕生2000年記念」イラストレーション》は、モノクロでありながら、原画がどのような配色だったのか、容易に想像することができる「鮮やかな色合いの珠玉の小品」と言えます。(続く)

この記事がお気に召したら「いいね!」をどうぞ。

TOPICS021:サヴィニャックの色 その② 03.06.2018

この連載の第一回で分析したように、サヴィニャック作品を特徴づける「」は、コバルト系やシアン系の「青」に他なりません。では、青との「組み合わせ」で、しばしば登場する他の色は何でしょうか――
ちなみに個々の商品、ブランド、企業などは、アイデンティティとなる色(シンボル・カラー)が規定されている場合が多いので、広告のカラー・スキームも、それを踏まえたものとなります。とするならば、それぞれの画面における色彩構成の基本を成し、かつ訴求力が高い色の意味や象徴性さえ分かると、文字が読めずとも、一つひとつのポスターの内容・趣旨に対する理解が導かれるのは言わずもがなです。もちろん、観る者の知識が問われるとは言え、逆説的には、ことさら目立つ色、それらの組み合わせ、露出する頻度が高いと、「この色は何を表すのだろうか」という興味が無意識に刺激され、色の印象が絵柄とともに強烈にすり込まれますたとえば、《「皆やるべきことを一緒にやろう」原画》(1966年頃)では、背景の空色、地面の明るい灰色の上に配されたスポーツ・カーのがひときわ目立っています。フランス人ならば、この三色と、クルマが元気な雄鶏を模したかたちであること、そして「TOUS DANS LA COURSE…」(レースは全員参加だ…)の文字を見て、「国威発揚キャンペーンの一種」だと分かるに違いありません。

  

何故ならば、「青(左)白(中)赤(右)」という決まった並びのトリコロール(三色)は、フランス国旗そのものであり、また、雄鶏はフランスの象徴(ガリアの雄鶏)だからです。もっとも、これはサヴィニャックの肉筆による「原画」のため、すべての文字が示されておらず、「国際的な自動車レースでフランス・チームの勝利を祈願するものでは」と感じる人(特に年少者や外国人)もいるでしょう。但し、展覧会を別にすると、一般の人々に原画が晒される機会は少ないので、やはり完成形の「ポスター」(1968年)で検証する必要があります。こちらは内容・趣旨が一目瞭然で、勘所となる文言の意味は、次の通り――

[キャッチフレーズ]
上1行目:TOUS DANS LA COURSE… (レースは全員参加だ…)
中下1行目:POUR GAGNER LA COMPÉTITION INTERNATIONALE (世界市場で勝つために。)
同2行目:VENDRE EST AUSSI IMPORTANT QUE PRODUIRE (販売は生産と同じく重要です。)
[発行者(クライアント)]
画面左下:INSTITUT POUR LA PROMOTION ÉCONOMIQUE PAR L’ACTION COMMERCIALE (フランス貿易経済振興会)
「なるほど、それで“皆やるべきことを一緒にやろう”のタイトルなのか。だから、“トリコロールの元気な雄鶏”がモティーフなのか」と膝を打っていただければ幸いです。さらに細かく観察すると、フランス貿易経済振興会(IPÉAC)のロゴマークが、兜を被り、槍を手にした「雄鶏の騎士」であることに気づかされます。

本作以外の事例でも、サヴィニャックは「」を基調色とするポスターを多数手がけており、その理由として、フランスの企業・組織、商品やブランドが積極的にトリコロールを採用していること、あわせて作家自身がフランス人で、広告の対象・発注主体が国外であっても「フランスらしさ」を大切にする表現に長けたことが挙げられます。純粋に「造形芸術」「コミュニケーション・デザイン」の理論に照らしても、は「絵の具の三原色」(もう一色は)なので、これにモノクロームのを加えた組み合わせは、「色彩構成の基本」「視認性の高さ」の観点から多用されてきました。

 

フランスの国旗としてトリコロールが制定されたのは、フランス革命期の1794年に遡ります。三色の意味合いは、フランスの憲法で定められる国のモットー「自由・平等・友愛」と結び付けられて(青=自由白=平等赤=友愛)語られがちですが、そもそも首都パリの標章も歴史的にでした。興味深いことに、三つの指定色は、時代のなかで少しずつ変わり、現在のものは、1976年に定められた「明るいトリコロール」(ヴァレリー・ジスカール・デスタン大統領による)。これとは別に、フランス国防省色彩規定に基づく「深みがあるトリコロール」も併用されています。

ところで、《「皆やるべきことを一緒にやろう」原画》(1966年頃)の背景は、単にトリコロールを際立たせるために、あるいは地面に対する青空を表すべく、明度の高いブルー(空色)が塗られたのではない、と考えられます。と言うのも、フランス(国・その旗)とは別に、パリ(街・モード)を表象する色が存在し、それは「きれいなライト・ブルー」だからです。この系統の色味こそは、前回も触れた「サヴィニャックの青」に合致し、と同時に、彼が生まれ育ち、活躍の拠点とした「パリの感覚」をポスターに加味しています。

参考までに、こうしたフランスの青パリの青に対する「」に目を向けると、日仏の色合いには大きな違いが見られます。在日フランス大使館アンスティチュ・フランセ日本の後援を受けた本展は、「日仏交流160周年」の文化事業の一つとして、展覧会の広報に専用ロゴマークを掲げていますが、その「」は、まさにフランスの赤で、日本国旗の「」とは別種のものです。(続く)

この記事がお気に召したら「いいね!」をどうぞ。