TOPICS024:見どころ紹介+ショップ情報 その⑤ 11.06.2018

ボンジュール!皆さん。当館での本展も、余すところ1週間となりました。月日が経つのは、まことに早いものです。
今回の「見どころ紹介」は、展示を未見の方々、そして今週いっぱいの間に、もう一度、観覧を考えておられるリピーターの皆さんにも、これまで触れていなかった「必見のポイント」をご紹介したいと思います。

展覧会の導入となる「中央ホール」から見て、向かって右側の「会場1」は、入口にサヴィニャックが世界へ羽ばたくきっかけとなった《ヴィルモとサヴィニャック ポスター展》(1949年)のイメージを、作品よりも大きく「ウェルカム・サイン」として使っていますが、我らがレイモンは、花を手にした「右側の赤い人物」です。ヴィルモ(左側の青い人物)との違いは「口ヒゲ」の有る無しで、これにまつわるエピソードは、それまでヒゲを蓄えていなかったサヴィニャックが二人展の際に、世間に朋友のヴィルモと区別してもらうために、ポスターのなかの自身にヒゲを付し、以降、それが彼のトレードマークになった、というもの。
この時、サヴィニャックは41歳でした。本展では、さらに遡って「ヒゲのないレイモン」――それも幼少期から青年期までの姿を、貴重な記録写真に探っています。いずれも小さな写真のため、まとめて「1枚の額」に収めており、その向かい側にある年譜とともに、「パリの下町に生まれた少年が、どんな経緯でフランスを代表するポスター作家になったのか」「最初はどの仕事も長続きしなかったけれども、そんな経験が後年における創作の糧となった」ことを、読み解いていただければ幸いです。

あわせて、すでに取り上げた「A. M. カッサンドルのアシスタント時代」の仕事、その後、フリーランスの立場で手がけた「サヴィニャックらしさ」が窺われる1940年代の作品にも注目。これらには、単純化された動物・人間のイメージ骨太だけれども手描きならではの柔らかい線の表現特定の色による平明なコンポジションなど、《牛乳石鹸モンサヴォン》(1948/1950年)に見るサヴィニャックの特質がすべて現れています。「指さすヒト」の原型も、雑誌の表紙に登場しました。

しかし、同じ展示室内の他の作品群は、編年的にではなく、あえて類似のテーマや、本展の組み立ての根幹を成す「モティーフの括り」に沿って並べています。と言うのも、サヴィニャックの場合、モンサヴォンで確立し、世の中にも字義通り受け止められた自称「ヴィジュアル・スキャンダル」(物議を醸す視覚表現*)というスタイルは、そのインパクトが古めかしく感じられるようになっても、晩年に至るまで踏襲されたからです。いかに「ノン・コミッションド」(自主制作*)のポスター原画を出発点とし、原画に対するこだわりを持って制作したにせよ、基本的に商業美術は、多様な広告対象とクライアント、変転する時代、不特定多数の観客がポスターの向こう側に存在するので、理論に裏付けられた普遍性を目指さず、しかもこのような表現を貫いたサヴィニャックのあり方は、かなり特異だったと言えます。
(*)「ヴィジュアル・スキャンダル」「ノン・コミッションド」については、「サヴィニャックをめぐる言説」を参照

再び中央ホールに戻り、今度は向かって左手の「会場2」に目を向けてみましょう。展示室の入口には、電器メーカー「フリジェコ」のシリーズから抽出した「指さすヒト」の人形、ウェルカム・サインは《イル・ジョルノ紙》(1956年)を選びましたが、どちらも独自なスタイルの開花、並びに様式化を示唆しています。

こちらの展示室に関しては、随所で試みた「原画とポスターの並置」に留意してください。フランスの近代ポスターにおける「アイディア・スケッチがポスターになるまでの工程」は、「サヴィニャックとともに旅を その③」で記したため、ここでは詳細を割愛しますが、特にサヴィニャックについて興味深いのは、一口に「原画」と言っても、目的によって、さまざまなサイズと完成度のものがあり、そのすべてが解明されていない点でしょう。たとえば、スケッチに近い原画、いわゆる(作家の肉筆とされる)ポスター原画、製版の一段階前と思しい(印刷の現場に最も近い)ポスター原画は、「サヴィニャック作品」として刷られるポスターと、必ずしもディテールが合致しません。また、入念な検討・推敲を通じて、完成に至る段階を示すものとは言い難い印象です。

事実、「ウット毛糸」のコーナーでは、右端の小ぶりな原画(1949年頃)と、ドアノーによる左端の写真(1950年)に見る大きな原画は、かなり違う点に誰もが気付かされます。

右から二番目のポスター(1949/1951年)と、それに基づいて42年後に作家自身が再制作した不思議なデザイン画(1993年)も同様。結論から言えば、サヴィニャックは、決して「緻密なアプローチを追求する理詰めのグラフィック・デザイナー」「鋭い感覚で采配を振るやり手のアート・ディレクター」ではなく、どこまでも「爛漫なヴィジュアル・スキャンダルに透徹したポスター画家」でした。よって、こうした「原画のばらつき・ポスターとの不一致」が生じ、広告の発表後、「プロジェクトの起承転結を系統的に保存・自己分析したわけでもなかった」と考えられます。

別のコーナーには、まさにサヴィニャックならではの「放逸な典型」を表象する「指さすヒト」の原画とポスターがずらりと並びます。ちなみに、これらの指が揃って「右を差す」理由は、「サヴィニャックの色 その③ 」で解説した「文字列が左から右へと記される欧文の性質」と関係しており、事例としては少ない「左を差す」タイプ――たとえば《ペルネル(毛糸):これさえあればバッチリ》(1965年)も、「毛糸玉が手編みの衣類になった」という筋書きからすると、やはり「左(毛糸)から右(全身が手編みの人間)へと視点が動く」構図に他なりません。

[本展グッズのご紹介]
ミュージアム・ショップから今回は、グッズ2種、及び本展図録を改めて紹介いたします。

●A4版ダブルファイル:税込680円
「半額料金パス」を意味する「半身の男女」のアイディアが秀逸な作品に基づく商品で、表紙は「ムッシュ」、中面右側に「マダム」を配し、左側には元になった《フランス国有鉄道》ポスターの画像を入れました。ベースとなる色が濃いブルーなので、クリアファイルでありながら中の書類が透けず、2つのポケットは容量もたっぷり。

●フランス製ポストカード(各種):税別150円
公式グッズのポストカードは、どれも「出品作品」によりますが、それだけでは飽き足らないサヴィニャック・ファンの方々もおられることでしょう。ついては、「他のサヴィニャック作品」をグッズとして購入できるよう、フランス製のポストカードを用意しました。幾つかの種類があるなかで、ここでは晩年の《ショーモン国際ポスター展》《トゥルーヴィル笑いの大衆芸能祭》を紹介します。

●本展図録:ハード・カヴァー/全264ページ:2300円
200点以上の出品作品・資料の画像、項目・作品・トピックス解説を散りばめ、3本のテキスト、詳細な年表、文献リスト、巻末データと充実した内容です。初会場の練馬区立美術館では、最終日に売り切れとなりましたので、ぜひお早めにお求めください。幸いにも当館では、下記の通り「通信販売+全国配送」を承っております。

宇都宮美術館ミュージアム・ショップでは、サヴィニャック展の公式図録・グッズのほか、ショップ内の取り扱い商品を、
※通信販売+全国配送
いたします。
詳しくは、下記までお問合せください。
直通TEL.028-666-8585
E-MAIL:utm_ms@icloud.com
なお、
※サヴィニャック関係の商品は、展覧会期中(最終日6月17日)のみの扱いとなりますので、ご注意ください。

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TOPICS019:サヴィニャックの色 その① 25.05.2018

しばらく前の記事で紹介したように、当館における本展は、二つの展示室をつなぎ、会場への導入となる「中央ホール」から始まります。


この場所で注目していただきたいのは、サヴィニャックが晩年に愛用した画材・道具(参考出品作品)です。2002年(平成14)まで長生きし、生涯現役だった作家だけあって、これらの品々は、いずれも骨董的なものではありません。クレヨン、サインペンやマーカー、色鉛筆、アクリル絵具などは、今日も流通している製品が多く、国内の画材店で見かけた、学校・大学の授業で使った経験がある、という皆さんも少なくないのではないでしょうか。

ともあれ、画材・道具を眺めたうえで、いよいよ展示室内の作品、特に肉筆の「原画」と向き合い、じっくりと観察してください。

たとえば、キャンヴァスにアクリル絵具で描かれた《「文化遺産年」原画》(1980年)。あるいは、合板とグワッシュを用いた《「クリームデザート モン・ブラン」原画》(1964年)両者の共通点は何でしょうか。肉筆作品とポスターの比較も大切です。上記の原画2枚と、《フリジェコ:良質の冷蔵庫》(1959年)を見くらべてみましょう。

「ポスター画家」であるサヴィニャックの場合、その作品は、基本的には「広告されるモノ・コト」を率直に伝え、クライアントの意向、印刷・掲出現場の事情も鑑みながら、ポスターという媒体に置き換えられることを前提にしています。よって、具象的で簡略化された表現のモティーフは、ラインアップとヴァリエーションの数・種類が膨大です。それでもなお、無数のモティーフ、さまざまなポスターを通底する「特徴的な造形性」が顕著に認められ、その一つが「」に他なりません。

  

サヴィニャック作品に頻出する色彩は――ずばり、コバルトやシアンを基調とする「爽快な青」です。この系統の青の色味・明度・彩度に変化をつけ、他の色との効果的な組み合わせによって、訴求したいモノ・コトに最も合致した「絵」を展開し、宣伝物としての多様性も図られています。もちろん、それぞれの商品とクライアントを象徴する色(シンボル・カラー)、ロゴマークやパッケージには決まりがあるので、それを尊重し、純粋美術とは異なるグラフィック・デザインならではの「色のコンポジション」を生み出しました。また、原画ではデリケートな色の表現が、ポスターになると、必然的に平明な刷りに変わる点も、サヴィニャックは承知していました。つまり、版画(美術作品)との違いを認識し、同時代の印刷技術(商業印刷のリトグラフやオフセット刷り)で可能な「自身の色=青=広告の色」を駆使した、として良いでしょう。

 

以上を念頭に置いて、改めて展示室を一巡してください。すると、「サヴィニャックの青」が次々と目に飛び込んでくるはずです。

  

そして、最後にもう一度、画材を仔細に見れば、どの色がよく使われたのか、すぐさまお分かりになるでしょう。(続く)

※今回、《文化遺産年》はポスターが出品されていませんが、「サヴィニャックとデザイン史の本棚」コーナーで紹介した Anne-Claude Lelieur, Raymond Bachollet, Savignac affichiste, Bibliothèque Forney, Paris, 2001 のなかに、それを見ることができます。

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