TOPICS021:サヴィニャックの色 その② 03.06.2018

この連載の第一回で分析したように、サヴィニャック作品を特徴づける「」は、コバルト系やシアン系の「青」に他なりません。では、青との「組み合わせ」で、しばしば登場する他の色は何でしょうか――
ちなみに個々の商品、ブランド、企業などは、アイデンティティとなる色(シンボル・カラー)が規定されている場合が多いので、広告のカラー・スキームも、それを踏まえたものとなります。とするならば、それぞれの画面における色彩構成の基本を成し、かつ訴求力が高い色の意味や象徴性さえ分かると、文字が読めずとも、一つひとつのポスターの内容・趣旨に対する理解が導かれるのは言わずもがなです。もちろん、観る者の知識が問われるとは言え、逆説的には、ことさら目立つ色、それらの組み合わせ、露出する頻度が高いと、「この色は何を表すのだろうか」という興味が無意識に刺激され、色の印象が絵柄とともに強烈にすり込まれますたとえば、《「皆やるべきことを一緒にやろう」原画》(1966年頃)では、背景の空色、地面の明るい灰色の上に配されたスポーツ・カーのがひときわ目立っています。フランス人ならば、この三色と、クルマが元気な雄鶏を模したかたちであること、そして「TOUS DANS LA COURSE…」(レースは全員参加だ…)の文字を見て、「国威発揚キャンペーンの一種」だと分かるに違いありません。

  

何故ならば、「青(左)白(中)赤(右)」という決まった並びのトリコロール(三色)は、フランス国旗そのものであり、また、雄鶏はフランスの象徴(ガリアの雄鶏)だからです。もっとも、これはサヴィニャックの肉筆による「原画」のため、すべての文字が示されておらず、「国際的な自動車レースでフランス・チームの勝利を祈願するものでは」と感じる人(特に年少者や外国人)もいるでしょう。但し、展覧会を別にすると、一般の人々に原画が晒される機会は少ないので、やはり完成形の「ポスター」(1968年)で検証する必要があります。こちらは内容・趣旨が一目瞭然で、勘所となる文言の意味は、次の通り――

[キャッチフレーズ]
上1行目:TOUS DANS LA COURSE… (レースは全員参加だ…)
中下1行目:POUR GAGNER LA COMPÉTITION INTERNATIONALE (世界市場で勝つために。)
同2行目:VENDRE EST AUSSI IMPORTANT QUE PRODUIRE (販売は生産と同じく重要です。)
[発行者(クライアント)]
画面左下:INSTITUT POUR LA PROMOTION ÉCONOMIQUE PAR L’ACTION COMMERCIALE (フランス貿易経済振興会)
「なるほど、それで“皆やるべきことを一緒にやろう”のタイトルなのか。だから、“トリコロールの元気な雄鶏”がモティーフなのか」と膝を打っていただければ幸いです。さらに細かく観察すると、フランス貿易経済振興会(IPÉAC)のロゴマークが、兜を被り、槍を手にした「雄鶏の騎士」であることに気づかされます。

本作以外の事例でも、サヴィニャックは「」を基調色とするポスターを多数手がけており、その理由として、フランスの企業・組織、商品やブランドが積極的にトリコロールを採用していること、あわせて作家自身がフランス人で、広告の対象・発注主体が国外であっても「フランスらしさ」を大切にする表現に長けたことが挙げられます。純粋に「造形芸術」「コミュニケーション・デザイン」の理論に照らしても、は「絵の具の三原色」(もう一色は)なので、これにモノクロームのを加えた組み合わせは、「色彩構成の基本」「視認性の高さ」の観点から多用されてきました。

 

フランスの国旗としてトリコロールが制定されたのは、フランス革命期の1794年に遡ります。三色の意味合いは、フランスの憲法で定められる国のモットー「自由・平等・友愛」と結び付けられて(青=自由白=平等赤=友愛)語られがちですが、そもそも首都パリの標章も歴史的にでした。興味深いことに、三つの指定色は、時代のなかで少しずつ変わり、現在のものは、1976年に定められた「明るいトリコロール」(ヴァレリー・ジスカール・デスタン大統領による)。これとは別に、フランス国防省色彩規定に基づく「深みがあるトリコロール」も併用されています。

ところで、《「皆やるべきことを一緒にやろう」原画》(1966年頃)の背景は、単にトリコロールを際立たせるために、あるいは地面に対する青空を表すべく、明度の高いブルー(空色)が塗られたのではない、と考えられます。と言うのも、フランス(国・その旗)とは別に、パリ(街・モード)を表象する色が存在し、それは「きれいなライト・ブルー」だからです。この系統の色味こそは、前回も触れた「サヴィニャックの青」に合致し、と同時に、彼が生まれ育ち、活躍の拠点とした「パリの感覚」をポスターに加味しています。

参考までに、こうしたフランスの青パリの青に対する「」に目を向けると、日仏の色合いには大きな違いが見られます。在日フランス大使館アンスティチュ・フランセ日本の後援を受けた本展は、「日仏交流160周年」の文化事業の一つとして、展覧会の広報に専用ロゴマークを掲げていますが、その「」は、まさにフランスの赤で、日本国旗の「」とは別種のものです。(続く)

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TOPICS019:サヴィニャックの色 その① 25.05.2018

しばらく前の記事で紹介したように、当館における本展は、二つの展示室をつなぎ、会場への導入となる「中央ホール」から始まります。


この場所で注目していただきたいのは、サヴィニャックが晩年に愛用した画材・道具(参考出品作品)です。2002年(平成14)まで長生きし、生涯現役だった作家だけあって、これらの品々は、いずれも骨董的なものではありません。クレヨン、サインペンやマーカー、色鉛筆、アクリル絵具などは、今日も流通している製品が多く、国内の画材店で見かけた、学校・大学の授業で使った経験がある、という皆さんも少なくないのではないでしょうか。

ともあれ、画材・道具を眺めたうえで、いよいよ展示室内の作品、特に肉筆の「原画」と向き合い、じっくりと観察してください。

たとえば、キャンヴァスにアクリル絵具で描かれた《「文化遺産年」原画》(1980年)。あるいは、合板とグワッシュを用いた《「クリームデザート モン・ブラン」原画》(1964年)両者の共通点は何でしょうか。肉筆作品とポスターの比較も大切です。上記の原画2枚と、《フリジェコ:良質の冷蔵庫》(1959年)を見くらべてみましょう。

「ポスター画家」であるサヴィニャックの場合、その作品は、基本的には「広告されるモノ・コト」を率直に伝え、クライアントの意向、印刷・掲出現場の事情も鑑みながら、ポスターという媒体に置き換えられることを前提にしています。よって、具象的で簡略化された表現のモティーフは、ラインアップとヴァリエーションの数・種類が膨大です。それでもなお、無数のモティーフ、さまざまなポスターを通底する「特徴的な造形性」が顕著に認められ、その一つが「」に他なりません。

  

サヴィニャック作品に頻出する色彩は――ずばり、コバルトやシアンを基調とする「爽快な青」です。この系統の青の色味・明度・彩度に変化をつけ、他の色との効果的な組み合わせによって、訴求したいモノ・コトに最も合致した「絵」を展開し、宣伝物としての多様性も図られています。もちろん、それぞれの商品とクライアントを象徴する色(シンボル・カラー)、ロゴマークやパッケージには決まりがあるので、それを尊重し、純粋美術とは異なるグラフィック・デザインならではの「色のコンポジション」を生み出しました。また、原画ではデリケートな色の表現が、ポスターになると、必然的に平明な刷りに変わる点も、サヴィニャックは承知していました。つまり、版画(美術作品)との違いを認識し、同時代の印刷技術(商業印刷のリトグラフやオフセット刷り)で可能な「自身の色=青=広告の色」を駆使した、として良いでしょう。

 

以上を念頭に置いて、改めて展示室を一巡してください。すると、「サヴィニャックの青」が次々と目に飛び込んでくるはずです。

  

そして、最後にもう一度、画材を仔細に見れば、どの色がよく使われたのか、すぐさまお分かりになるでしょう。(続く)

※今回、《文化遺産年》はポスターが出品されていませんが、「サヴィニャックとデザイン史の本棚」コーナーで紹介した Anne-Claude Lelieur, Raymond Bachollet, Savignac affichiste, Bibliothèque Forney, Paris, 2001 のなかに、それを見ることができます。

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